又吉直樹の『第2図書係補佐』を読みました

「あのー、芸人の又吉の火花ありますか」。

つい先日、勤めている図書館で中3か高1くらいの男の子に尋ねられました。

彼があまりに恥ずかしそうにボソボソと言ったので、私の頭の中で「ゲイニンノマタヨシノヒバナ」を「又吉直樹の芥川賞受賞作『火花』。今、第二作の『劇場』が出版されたので、関心が高まっている」と置き換えるのに、2秒位かかりました。

この2秒間に、彼の顔はさらに赤くなり、「こんなおばあさんでなくもっと若いライブラリアンに訊けばよかった」と思っていることがありありです。

私も「少々お待ちください」とあわてて貸出中かどうかを検索してから、「こちらにどうぞ」と書架に案内しました。

本を手にした彼の笑顔を見てほっとすると同時に、どんな作家なのかなと気にかかり、この『第2図書係補佐』を借りることにしました。

「自分の生活の傍らに常に本という存在があることを書こうと思いました」という言葉のとおり、47冊の本にまつわる彼のエピソード、読書によってどのように動かされてきたか、というようなエッセイ集でした。

私は彼の芸を知りませんが、自己をまっすぐに見つめながら正直に生きてきた人、という印象を受けました。

そして、若い人の読書離れや、本という存在の継続事態がしばしば危ぶまれていますが、決してそんなことはない、と確信しました。

それどころか、『ビブリア古書堂の事件手帖』の三上延にしても、この又吉直樹にしても、心から、というより全身全霊で本を愛している、本とともに生きていると感じられます。

私はかつてかなりの「文学少女」でしたし、今も「読書シスター」ですが、彼らにはまったく歯が立ちません。

又吉の47冊中、私が読んだものはたったの7冊、ビブリアに至ってはさらに比率が少ないです、

そしてこのような彼らの書いたものが、彼らよりずっと若い世代に拍手をもって受け入れられているのですから、心強い限りです。

 

ふと思い出して、アマゾンの「ほしいものリスト」にずっと前に登録したウンベルト・エーコの『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』をネットで開けてみました。

2010年に翻訳出版された時、高かったので、いずれ中古で手に入れようと思っていたのです。

面白いことに、ページのトップに「Kindleストアでは、 もうすぐ絶滅するという紙の書物について を、Kindle無料アプリまたはKindle電子書籍リーダーで今すぐお読みいただけます」とあって、もちろんこの文言は電子書籍になっているすべての本のページに入っていて、何度も目にしているのですが、なんたる皮肉、と笑ってしまいました。 (Sr.斉藤雅代)

 

又吉直樹著 『第2図書係補佐』 幻冬舎よしもと文庫 (2011/11/23)