今回は、有名なタラントンのたとえ話です。これを読んでくださっている桜の聖母学院と明治学園の卒業生の皆様は、必ず聞いたことがあると思います。入学式、あるいは宗教の時間に。キリスト教に興味・関係のない人にも分かりやすいたとえ話です。多くの場合、「タラントン」という古代の貨幣単位が、このたとえ話を元にして「才能」「能力」を意味する言葉となり、さらに日本語では「特殊な才能もった人=タレントさん」と意味が変転していったことが語られ、「だからあなたも、神様からいただいた賜物である才能を発掘し、育て、世のため人のために活用しなさい」と結ばれる。私も長い間、このようにこの話を取り扱っていました。今回、これを書くにあたって、何か別の光が欲しいです、と神様に祈りました。
ちょうど、『Life Shift―100年時代の人生戦略』という本を読んでいました。この本は、私たち現代人は、おおむね百歳まで生きるので、今までのように、人生を、勉学期・就業期・退職後の3ステージで考えることはできない、もっと人生が多様になっていく、という内容の本です。それはともかくとして、次のような箇所がこのタラントンのたとえ話と私の中で結びつきました。
私たちは貯蓄や不動産のようないわゆる「資産」だけでなく、愛情関係や知識や健康も「無形の資産」としてもっている。この中で特に、友情その他の人間関係は、数値で把握しにくいし、欲しいからといってその場で購入することもできないが、大きな価値をもっている。「稼ぐ金が増えれば、幸福の度合いは高まるかもしれない。しかし、幸福かそうでないかをわけるのは、あくまでも愛なのだ」。
愛情が買えないことは言うまでもありません。旧約聖書の雅歌には「愛を支配しようと財宝などを差し出す人があれば、その人は必ずさげすまれる」(8:7)とまで書かれています。愛が「資産」だとすれば、だれがこれを資産として私にくれたのでしょうか。もちろん「私の努力」で獲得した部分もあるでしょう。
でも、生まれたばかりの赤ちゃんは、多くの場合なんの努力をしなくても、親から、周囲から愛されます。神様がそのように仕組んでくださっているからです。私のように出産や子育てを経験していない者でも、小さな赤ちゃんの泣き声を聞くと、体の奥深いところが反応します。これは神様が女性にくだった本能です。ましてお母さんがわが子の泣き声を聞くとき、どんなに敏感にその声を聞き取るでしょう。
神様が私たちにくださっている最初のタラントンは「愛情」です。それも、一方的に愛される愛情です。これを私たちに預けてくださっているとしたら、物心ついた私たちはまずこの「1タラントン」をどんなに大切にしなくてはならないでしょう。すべての愛情関係の基になる資産だからです。やがて様々な知識や仕事のためのスキルを身に着けられるのも、健康を保つよう自分の体にふさわしい注意を払うのも、この1タラントンがあるからです。
ところが私たちはしばしばこの最初の1タラントンではなく、その上に加えられた2タラントン以降の方を大切にしてしまいがちです。たとえばだれかをほめる時、多くの場合、2タラントン以降をほめていませんか? 「あなたは~ができるのね」「あなたの目は魅力的ね」…これらはすべて2タラントン以降のものです。「あなたはなんて深く神様に愛されているのかしら」とほめられたことがあったら幸いです。最初の1タラントンが話題になっているのですから。
さあ、最初の1タラントン、神様の無償の愛にもっと深く気づきましょう。そうしてこそ、それ以降のタラントンをさらに世のため、人のために生かせる人になれると思います。 (Sr.斉藤雅代)
≪聖書箇所≫ マタイ25:14-30
(そのとき、イエスは弟子たちにこのたとえを語られた。)「天の国はまた次のようにたとえられる。ある人が旅行に出かけるとき、僕たちを呼んで、自分の財産を預けた。それぞれの力に応じて、一人には五タラントン、一人には二タラントン、もう一人には一タラントンを預けて旅に出かけた。早速、五タラントン預かった者は出て行き、それで商売をして、ほかに五タラントンをもうけた。同じように、二タラントン預かった者も、ほかに二タラントンをもうけた。しかし、一タラントン預かった者は、出て行って穴を掘り、主人の金を隠しておいた。さて、かなり日がたってから、僕たちの主人が帰って来て、彼らと清算を始めた。まず、五タラントン預かった者が進み出て、ほかの五タラントンを差し出して言った。『御主人様、五タラントンお預けになりましたが、御覧ください。ほかに五タラントンもうけました。』主人は言った。『忠実な良い僕だ。よくやった。お前は少しのものに忠実であったから、多くのものを管理させよう。主人と一緒に喜んでくれ。』次に、二タラントン預かった者も進み出て言った。『御主人様、二タラントンお預けになりましたが、御覧ください。ほかに二タラントンもうけました。』主人は言った。『忠実な良い僕だ。よくやった。お前は少しのものに忠実であったから、多くのものを管理させよう。主人と一緒に喜んでくれ。』ところで、一タラントン預かった者も進み出て言った。『御主人様、あなたは蒔かない所から刈り取り、散らさない所からかき集められる厳しい方だと知っていましたので、恐ろしくなり、出かけて行って、あなたのタラントンを地の中に隠しておきました。御覧ください。これがあなたのお金です。』主人は答えた。『怠け者の悪い僕だ。わたしが蒔かない所から刈り取り、散らさない所からかき集めることを知っていたのか。それなら、わたしの金を銀行に入れておくべきであった。そうしておけば、帰って来たとき、利息付きで返してもらえたのに。さあ、そのタラントンをこの男から取り上げて、十タラントン持っている者に与えよ。だれでも持っている人は更に与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる。この役に立たない僕を外の暗闇に追い出せ。そこで泣きわめいて歯ぎしりするだろう。』」